財津一郎さんのこと。

あれほどの幼い感性、拙い技術で、よく格式ある日生劇場に出演したものです。私の初舞台は樋口一葉 原作・蜷川幸雄 演出の『にごり江』。鹿児島から上京して2年目の1984年1月の公演でした。

江東区のベニサンスタジオでの初稽古はその前月。最初の出番は喧嘩のシーンです。舞台上に走り出たものの立ち往生。ただ相手役を睨みつけるだけのお粗末な演技に、演出の蜷川さんも”灰皿”どころか苦笑いでした。

その日、稽古が終わるとすぐさま駆け寄ってきた人がいました。財津一郎さんです。

あの独特の口調で且つ実演付き。そして真剣です。

「争ってんだから呼吸が荒いの。ねっ。こうハーハーって。舞台の芝居だから大きく、肩を上げ下げしてハーハーって。ね」

あれから40年。若い俳優に

「人は呼吸をしているんだよ。君の芝居は息をしていないじゃないか」

と、ダメ出しする私。自分だってできなかったくせに。

  

財津さん、有難うございました。

お悔やみ申し上げます。

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演出家 竪山博之(たてやまひろゆき)のサイトです。 舞台や、映像、ラジオ番組、コンサートを制作したり、 芸術について話したり、脚本を書いたり、俳優を育てたりしています。 Hiroyuki Tateyama, stage theater producer, organaisez le producteur de theatre.

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