“La vie de qui?“ (誰の人生か?)
Queenの名曲の数々を、モーリス・ベジャールさんがバレエに昇華させた“Ballet for life”は、まさに”Ballet for my life”。私の人生の救世主たるパフォーミングアーツです。
それだけに、新型コロナウィルス感染症の影響によるモーリス・ベジャール・バレエ団の来日中止は、残念でなりません。古い恩人との再会を逸してしまい、ひとり手酌酒、いや手酌ワイン。ピカソの『貧しき食事』のような心持ちです。
そこで、擦り切れるほど観て、本当に擦り切れてしまい、書架に10年ほど眠ったままのビデオに代えて、DVDを取り寄せました。夢か現か曖昧な、2006年4月のパリ公演(写真)以来の“Ballet for life”です。
悲嘆に暮れること少なからずの我が人生も、穏やかな引き波を描く日々となり10数年。肉体的衰えと、芸術的刺激の欠如で、昔の服と諦めていた“Ballet for life”は、多少、きつくなったところもありますが、まだまだ着られると安堵しました。懐かしくて、例えば、あの頃は、薄荷の塗り薬のように、肌に直接滲みる芸術を佳しとしてた、なんて心覚が、脳の宇宙を揺蕩います。まあ、つまり、観て良かったということ。
Queenのボーカル、フレディー・マーキュリーさんの、命を賭しての叫び、”Show must go on”の力強いイントロが始まると、満を持してベジャールさんが登場します。エンディングです。
2006年のパリ公演では、体調が思わしくなかったベジャールさんに代わり、ジル・ロマンさんが登場(写真中央)。横一列になったダンサーの、”Show must go on”のリフレインに合わせた、客席へ向かってのdéfilé(行進)が圧巻。
ベジャールさんは、その翌年の2007年に鬼籍に入られました。80歳でした。
フレディ・マーキュリーさんは1991年に、ベジャール・バレエのカリスマ・ダンサーだった、ジュルジュ・ドンさんは1992年に、それぞれ45歳の若さで落命。死因はともにHIVでした。また、”Ballet for life”の衣装を担当したデザイナーのジャンニ・ヴェルサーチさんは、1997年に痛ましい事件に巻き込まれ、50年の生涯を閉じました。
『La vie de qui?( 誰の人生か?)』は、ベジャールさんの著書のタイトル。
今や、どう考えても子どものための我が人生。このまま穏やかに引き波を描き続けるのも理想の一つ。しかし、”Show must go on”と、自ら鼓舞することも忘れてはいかんねというのが結論です。
0コメント